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大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)2395号 判決 1989年5月10日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人上硲功に対し金一七〇万円、控訴人水崎博美に対し金二〇〇万円、控訴人上野晶治に対し金一六〇万円、控訴人岩橋俊彦に対し金一〇〇万円、控訴人福岡欣二に対し金三〇万円、控訴人流川博文に対し金一〇〇万円、控訴人南出信幸に対し金四〇万円及びこれらに対する昭和六一年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  主文第一ないし第三項と同旨。

2  仮執行の宣言。

二  被控訴人

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

次のとおり訂正・付加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一  原判決六枚目表三行目の「被告が」を削る。

二  同九枚目裏六行目の「否認する。」を「否認し、被控訴人が右解除をしたとき、被控訴人は工事の既済部分を引取ることができ、この場合被控訴人が引取る部分に対して相当と認める金額を支払うことが合意されていること(二〇条三項)は認める。」と改める。

三  同一二枚目表六行目の「抗弁」の次に「2ないし4項(本件工事の遅延・停止・本件契約の違反等)、6項(訴外会社倒産)記載の各事実は争い、」を、九行目の「抗弁」の次に「8項(被控訴人の支払金額)記載の事実は争い(支払金額は一億一五〇〇万円である。)、」を各加える。

四  同一三枚目裏三行目の「生じていない。」の次に「のみならず、二三条において右のような保証人を立て、保証人に訴外会社と連帯して工事完成及びこれに関連して生ずる債務不履行上の損害賠償を保証する責任を負わせることとして、被控訴人が被ることあるべき損害を最小限度に食い止める措置を講じていること自体、二〇条一項一号該当の事由をもって同条二項の違約金発生の原因としていない趣旨を示すものであると言うべきである。」を加える。

五  同一四枚目裏三行目の次に行を改めて「そもそも、被控訴人が当事者となって作成する工事請負契約書に、債務不履行の場合における違約金その他の損害金に関する事項を記載しなければならないことは、和歌山市財務規則一四二条八号に定めるところであって、本件契約書二〇条二項において同条一項一号該当の典型的な債務不履行に関する場合を除外するがごときはありえないことである。また、債務不履行の場合における損害は、その性質上工事完成等を保証する保証人が立てられていると否とにかかわらず発生するものであるから、本件契約書において右保証人が立てられていても、そのことと違約金その他の損害金に関する事項とは関係があるものではない。」を加える。

第三  証拠関係<省略>

理由

一  原判決一五枚目表一行目から一七枚目表末行目までは、次のとおり付加・訂正するほか、当裁判所の判断と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一五枚目表一〇行目の「抗弁」の次に「1項(三)、」を加える。

2  同一五枚目裏七行目の「1項のうち(三)記載の事実、同2項ないし」を「2項(ただし、原判決六枚目表七行目の「昭和」から九行目の「同年」までを「工事は大幅に遅延し、訴外会社が被控訴人に提出した工程表で予定されていたよりも約二か月も遅れてやっと昭和六〇年」と改める。)、3項」と改め、八行目の「9項」の次に「(ただし、原判決七枚目裏七行目の「出来形率」から九行目の「出来形率」までを「出来形設計金額は一億五八二五万円(出来形率は二四・三パーセント弱)であるから、出来形精算請負金額はそれに請負比率七八・二九七パーセント」と改める。)」を加える。

二  右引用部分に続けて次のとおり説示を付加する(原判決一七枚目裏一行目以下は引用しない。)。

「2 そこで、本件契約書二〇条の趣旨について検討する。

同条の一項は、契約解除事由として一号ないし九号を挙げ、二項において前項二号、四号および五号に該当する事由により契約を解除されたときは請負人は違約金を支払わねばならない旨定めているのであるから、一号に該当する場合は違約金を支払う義務を負わないことになるのが論理の当然である。一号該当の場合も五号により違約金を支払わねばならぬというのであれば、一号を特別に書き分けた意味がない。もっとも、五号は「契約事項に違反したとき」と定めており、これは広い意味では一号の「正当な事由がなく契約期間内に契約を履行しないときまたは履行の見込みがないと明らかに認められるとき」を含む表現であるが、表現の点から言えば、七号の「正当な理由なしに着工時期を過ぎても工事に着手しないとき」も、八号の「第四条の規定(註・注文者の書面による承諾なくして債務の履行を第三者に委託すること等を禁じた規定)に違反したとき」も「契約事項に違反したとき」に含まれることになるはずであり、そうだとすると、五号は一号、七号、八号の各場合を包含する規定ということになってまことに不自然である。被控訴人は、一号の重大な債務不履行の場合に違約金納付義務が発生せず、それより軽度の二号・四号の債務不履行の場合に右義務が発生するものとするのは条理に反する旨主張するが、一号が当然に二号・四号より重大な債務不履行であるとは解釈できない。たとえば、請負人が重要な取引先の倒産によってはからずも契約が履行できなくなった場合のごときは背信性が大きいとは言えないし、着工後間もなく履行不能となって注文者にさしたる損害を与えない場合もあるであろう。本件違約金約定は、工事竣工の程度や実損害の有無いかんを問わず契約金額の一〇〇分の一〇に相当する金額を請負人に納付させるものであって、請負人にとって厳しい規定であるから、工事が請負人の責に帰すべき事由によって履行不能になったすべての場合に当然に適用すべき必要と合理性があるものとも言えない。被控訴人主張の解釈のごとくであれば、結局は契約違反のすべての場合に請負人に違約金支払の負担を負わせることになるが、これは過ぎたる効果のように見え、かつ、契約書の文言・構成(とくに五号の位置)とも符合しない。してみれば、本件契約書の二〇条は、違約金支払義務が発生する場合(二号・四号・五号)と然らざる場合(一号、三号・六号ないし九号)を区別して規定しているもので、五号は一号の場合を除外する趣旨であり、五号は二号・四号の場合と同程度に不誠実性が顕著な契約事項の違反の場合を指すものと解釈するのが相当である。そして、本件契約書二〇条一項一号にいう「正当な理由がなく契約期間内に契約を履行しないときまたは履行の見込みがないと明らかに認められるとき」は、請負人が注文者から契約を解除される事由にはなるが所定の違約金を支払うべき場合に該当せず、客観的に認め得られる損害の額を注文者に支払うべき場合に該当すると解して何ら不都合はないと言うべきである。 この点に関して、被控訴人は、被控訴人市が当事者となって作成する工事請負契約書を作成するにつき準拠すべき和歌山市財務規則一四二条八号には、債務不履行の場合における違約金その他の損害金に関する事項を記載しなければならない旨定められていることを理由に、本件契約書二〇条一項一号該当の事由を同条二項の違約金納付義務が発生する場合から除外するがごときは、およそありえないことである旨主張する。しかし、右規則は被控訴人内部の事務処理規則にすぎず、規則所定の事項が二〇条二項において取り入れられているものと解されないから、右主張は失当である。 3 そうすると、被控訴人が二〇条一項一号該当を理由に本件契約を解除しても、同条二項に基づく違約金債権は発生するに由ないものであると言うべく、したがって、同違約金債権を自働債権としてなされた被控訴人主張の相殺の意思表示は効力を生じないから、被控訴人の抗弁は理由がない。」

三  以上の次第であるから、被控訴人に対し、控訴人ら各自の譲受債権額及びこれらに対する弁済期の経過した後である昭和六一年六月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人らの本訴請求はいずれも正当としてこれを認容すべきである。

四  よって、原判決は失当で、本件控訴はいずれも理由があるから、原判決を取り消し、控訴人らの本訴請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今中道信 裁判官 仲江利政 裁判官 上野利隆)

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